偽りのヒーロー



「お前らが紫璃にチクるから……。俺、ほんと大変だったんだからなっ」



 体育の授業中、レオはあくせくと訴えていた。

卓球の、パコンパコンと軽快な球の音。クラスメイトがきゃははと笑う声を聞きながら、レオは胡坐を掻いた膝をゆらゆらと揺らしていた。



 レオが図らずも粗相をしたあの日、菜子と紫璃は放課後共に過ごしていた。

そのときは、新しいクラスについての話題だとかで、レオは話題に上らなかったのだが、同じ夜、菜子に知らせることはなかったが、レオには怒涛の連絡の嵐だったのだという。



当然の如く、怒りの連絡。

上手くあしらう術を持っていないレオは、ひたすら謝ればいいものを、「この前貸したАVに出てくるようなツルツルしたやつじゃない」とか、余計なことを言ったらしい。

夜が更けるまで、ガミガミと紫璃の怒号を浴びせていたのだという。



「しかたない」



 未蔓の素っ気ない一言に、ショックを受けるレオ。大きな体でオーバーリアクションをするレオが嫌でも目に入ってくる。

そのくせそれは、ショックを受けるふり。微塵も反省の欠片がない様子で、菜子に軽く小突かれていた。



「反省してよ、まったく」



 じろりと視線を向ける菜子に、レオは「はは」と笑って返す。全くもって、この人は。

紫璃には勝てないと踏んで、あしらうこともしないくせに、菜子にはからかうような態度を崩さないのは、恐らく嘗められている、いや、親しみを込めた態度だと思いたい。



 卓球台にたつ順番を迎えた未蔓がのそのそと立ち上がると、その背中にひらひらと手を振った。



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