偽りのヒーロー
「今度さあ、映画行かね? ぷにきゅあの! ナイトレンジャーも同時上映なんだよ! そんでその後カラオケ行こうぜ! ミッツも一緒にさあ」
レオは陽気にマイクを持って歌う素振りを見せた。
「菖蒲誘って3人で行けばいいでしょうよ」
「お前、菖蒲ちゃんが隣にいて、俺が映画に集中できると思うわけ?」
堂々としたレオの物言いに、一瞬菜子は納得しそうになっていた。慌てて「違う違う」と自分に言い聞かせると、紫璃も誘うことを提案した。
「はー、そればっかだよな〜」
床に後ろ手についた両手に体重をのせて、レオはぶらぶらと足を揺らしている。つまらないと、いじけた態度を全面に表現して。
「紫璃ってそんなに嫉妬深いの?」
「友達と遊びに行くものだめなのかよ〜」
「つまんねーよー」
と、口を尖らせ文句を垂れていた。
子供向けのアニメ番組は、些か客層を選ぶ。家族連れとかそういうことではなく、皆一様にアニメ鑑賞するわけでもない。
レオと未蔓は趣味が合うのか、よく一緒に遊びに行っていることは菜子の耳にも入っていた。
同じように菜子の前でも、第三者から見たら専門用語のような、聞き慣れないアニメの登場人物とか、アニメに出てくる言葉を発する。
菜子本人もさることながら、弟の楓と一緒にアニメ等を嗜むせいか、違和感なくその会話を聞いていた。
時折菖蒲に「なんの話をしてるの?」なんて聞かれても、レオは恥ずかしいのか、かっこいいところを見せたいのか、「いや、ちょっと……」と、菜子に助けを求める視線を投げかけてくる。
隠すこともない。簡単にアニメの説明をするも、菖蒲はあまり興味がないようだった。
「知らないやつと行ったってだめなの! こう、興奮をわかち合いたいわけ!」
「わかる!?」と目を輝かせ、ピシッと指を指してくるレオに、じっとりとした視線を送った。
「わかんない。……ていうか普通彼氏がいたら、他の男の子と遊ばないものじゃないの?」
レオに聞いた疑問は、なんとも自然に聞けたのではなかろうかと、心の中で菜子はガッツポーズをした。
当たり前のように、紫璃以外と遊ぶことを避けていたのだけれど、もしやそれは特質なものなのだろうか。