偽りのヒーロー



 菜子はきっと、家も近いし親同士の付き合いもある。

「仲良くするんだよ」、なんて親の戯言を真に受けて、自分に構っているのだろうと思っていた。




だって、菜子は女の子と絵を描いたり、ままごとしたり、砂でお城を作ったり。いつも女の子と遊んでばかりで、ライダーごっこでは遊ばない。それなのに、それをして遊ぶ俺の手はひいてくれる。




 ある日「むりしておれといなくていいよ」と何の気なしに言ったことがある。

菜子は困惑したように、狼狽えていたことを覚えている。途端に怒りだして、「むりじゃないけど」と頭に付け加えると、「なこのこときらいなの!?」と、勝手に勘違いしてぶんぶん怒っていた。





 団体で遊ぶのが難しいのなら一人遊び。部屋の隅っこで絵を描いたり、本を読んだり。
ちょっとだけ寂しいときもあったけど、友達と上手く遊べないのなら、そっちの方がいいと思った。



「うまく遊べないってなに」「遊びにうまいもへたもない」と幼いながらに、菜子の言葉に、なんて道徳的なことを言うのだろうと思ったものだ。

あの頃は、あまりに幼くて、深い意味もなかっただろうけど、未蔓はその言葉に救われた。





 今となっては自分らしいと思う、言葉使いも笑い方も。

小さな頃は引け目を感じていて、よく笑いよく泣く、ころころと表情の変わる菜子に、「どうやったら、菜子みたいに笑えるの」と聞いたことがある。



「え? たのしいから……?」



 笑い方を問われるとは思ってもみなかっただろう。不安そうに、答えを考えては、うーんうーんと頭を抱えていた。「上手く笑えない」、と小さく漏らした未蔓の言葉に、菜子は言う。



「たのしくなければわらわなければいいんだよ!」






 目から鱗が落ちた。それでいいのかと。

驚いて固まる未蔓に、「やっぱりまって」「いまのはなし」とかいろいろ付け加えては、俺の反応をちらりと横目で見ていた。



「そうだ! みつるのことわかってくれるひとだけ、ともだちになったらいいよ!」



 それができないから困っているのに、やはり子供は突拍子もないことを言い出す。

幼いなりに、それができたら苦労しない、と顔を背けた。いじける未蔓を気にも留めす、菜子が言った言葉はこれだ。



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