偽りのヒーロー
窓枠に腕をついて、レオのびゃーびゃーと唸るような泣き声をBGMに、菜子はぼんやりと外の景色を眺めていた。
体育の授業を外で行うのか、紫璃の後ろ姿が見えて、じっとその背中を見つめていた。
あまりに遠いその距離に、声をかけるか迷ったのだが、我先にと菜子の隣から顔を出したレオがぶんぶん手を振っている。
レオに同乗して菜子も小さく手を振った。
「うわ。菜子、見てみ。紫璃のやつ、甘ったるい顔してら」
茶化してくるレオに、菜子は聞こえないふりをしていた。
紫璃が上の教室を見上げているのには気づいていたが、冷やかしがなんとも気恥ずかしい。
めげずに何度も軽口を叩いてくるレオに我慢ができなくなって、「うるっさいなあ、もう!」と、菜子は怒って見せた。
「あれ、あの人も手振ってる。誰? 俺らんこと見間違えてんのかな?」
目を細めて外を見ようとするレオの視線。視線を外した校庭に、再び菜子が目を向けようとすると、窓際にきた未蔓に菜子は押しのけられている。
「直人だ」
ひらひらと真顔で手を振る未蔓の肩越しに、ひょっこりと覗いた。
「あ、ほんと。直っぴじゃん。紫璃と同じクラスなんだ」
菜子と未蔓の会話についていけていない菖蒲とレオ。一目見ようとする二人によって、既に窓際は定員でいっぱいだ。不可抗力で囲まれた菜子は、菖蒲の「……原田くん」という呟きにより顔を青ざめさせたのだった。
「……菜子。知ってたの?」
「あ……。や、違くて。後から知ったんだよ、その原田くんが直っぴだとは……」
たじろぐ菜子に、菖蒲はどんどんと詰め寄った。整った顔が真顔になると、異様に迫力がある。
菜子は困り顔で苦笑すると、状況を理解できていないレオが、何なに、と好奇心を丸出しにして顔を動かしている。
「蓮見さんに告白してフラれた、残念な俺の友達の、直人」
「ひえっ、み、未蔓!」
慌てて未蔓の口を手で覆うと、何事もなかったかのように菜子は着席した。教科書ノートを机の上に出すと、姿勢を正して口を開く。
「ほら、授業、始まるからね。かいさ〜ん、なんて。はは……」
「なんだよお! どういうこと!?」
未蔓の華奢な体を、レオががくがく揺さぶっていた。