偽りのヒーロー



「結城。あれか、お前の新しい彼女」

「ん、まあ」

「へー。ずいぶん感じ違うな。ユリエとかアキとかに比べたらなんか……普通?」

「あー。生娘的な?」

「ばっか。ピュアって言うんだろ、そういうのは!」



 げらげらと笑う友人に、紫璃は眉間に皺を寄せた。じろりと睨みつけると、機嫌を損ねた紫璃を見て、すぐさま口をつぐんだ。




 窓際で何やら騒ぐ菜子たちを見て、紫璃は目を細めた。つい数か月前まで自分もあの中にいたのかと思うと、なんだか不思議に思える。



 新しいクラスになって、仲の良い友人たちと別れてしまった新学年。



気づけば紫璃を取り囲む新たなクラスメイトは、一年前の如くフットワークの軽そうな友人らが集まってきた。

何ら変わりのない学生生活のはずなのに違和感を抱いてしまうのは、紫璃と菜子がつき合うことになったからだろうか。




 自分をよく魅せるために施された化粧も、学校指定のジャージの下にひっそりとなりを潜めたままのネックレスも。

それまで普通にいたはずの女性像が、今ではしっくりこなくなってしまっていた。









 菜子に手を振っていたのは紫璃だけではなかった。

明るい髪の色をした、確か、原田だったか。

自分と同じように校舎を見上げて、レオが何やら菜子の顔を向くと、恥ずかしそうに俯いている。



「原田、菜子のこと知ってんの」



 数人の男女の固まりから抜け出すと、紫璃は原田へ話かけた。見た目と違って何やらおろおろとしてるところが、少し菜子と似ている。自分に話しかけているのだと理解すると、目を瞬かせて笑っていた。



「驚いた。菜っ子の彼氏って結城だったんだね」

「……菜っ子?」

「あ、菜子の中学んときのあだ名なんだ。ちなみに俺は菜っ子直っぴって呼ばれてます」



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