偽りのヒーロー
チャラチャラした容姿に反して、ずいぶんと丁寧な喋り方をする。原田は、中学時代の紫璃の知らない菜子を知っている貴重な人物だとわかると、楽しそうに話をしていた。
「俺、一年のとき未蔓と同じクラスだったんだよ。それで結構未蔓の家に遊びに行ったりして。冬休みだったかな。未蔓んちにいたら、菜っ子が『彼氏ができた!』ってすごい勢いで話してたよ」
まさか自分のいないところで、自分の話をしているとは思ってもみなかった。紫璃は驚いたように原田の顔を見ると、原田は見開いた目をしたのち、すぐに笑顔になった。
「すごいかっこいい人だって言ってたよ。隣にいるの、不安だっても言ってた」
「釣り合わなくて、だって」と、はは、と笑いながら話している。
あまりに変わらない菜子の態度。告白をしたところで連絡がマメになったわけでもなければ、突然彼女面をするわけでもない。
手を繋ぐのも、デートに誘うのも、キスをねだるのも。いつも紫璃からだった。もう少し、わがままを言ってくるくらいでちょうどいいのだが。
すぐには難しいと考えていたときに、毎朝同じく通学路を歩いてくる幼馴染と離れ、一人で通っていると聞いた
。菜子は何も言わなかったが、紫璃に気を遣っているであろうことはすぐにわかった。
「ベタベタしすぎ」だと口を尖らせたのは紫璃自身だったからだ。
当たり前のように、「彼氏」になった紫璃のことを考えようとしているのが腹が立つ。
言えばいいのに、言わないで。
クリスマスも忘れていたかと思えば、へにょへにょした笑顔で人の頭の中をかき乱すし、あんな顔をしておいてつき合ったこともないという。
菜子には驚かされてばかりだ。気軽な付き合いがモットーだったはずの紫璃が、既に数か月もの間一緒にいるだけですら快挙。
それなのに、なんでだろうと疑問が浮かぶ。
告白したのは紫璃自身ではあるのだが。
わからないから、知りたくなった。
クラスが離れて、当たり前だった菜子の姿を見られないだけで、もうこんなにも不安になる。
「菜子って中学んときどんな感じだった?」
「え、うーんそうだなあ。にこにこしてたかな。みんなが泣きそうになってるときとかもね」
「……?」