偽りのヒーロー
菜子の中学時代はバスケットボール部に所属しており、原田も同じくバスケットボール部であった。
地区大会でぎりぎり一緒にならない学区の範囲が、大人にしてみれば都合が良かったようで、練習試合、合同練習、数日の合宿、頻繁に顔を合わせることが多かった。
男子バスケ部と女子バスケ部。原田の学校は、当時のバスケ部の人数が多くはなくて、男女共に練習をすることが多くあった。
一年生の頃の練習試合だっただろうか。
隣のコートに他校の女バスがぞろぞろと姿を現した。
強そうな黒い色のジャージに身を包んだその学校の女バスの子らは、原田の学校の女子よりも身長も体格もよく、強豪校と言わんばかりの風貌をしていた。
隣のコートに目を奪われた他の男バスの部員も、原田と同じようなことを思っていたようだった。
その日の女子の練習試合は、惜しくも敗れてしまったようだが、再び共にプレイをするのだという。ませた女子たちが携帯の連絡先を交換したとかで、すっかり距離が縮まっていたようだ。
菜子はすぐにバスケ部員の中で噂になった。
真っ赤に光る菜子の学校のユニフォーム。ノースリーブから見える引き締まった腕、ハーフパンツから覗く健康的な筋肉のついた足。ガタイは良くはないけれど、それは運動部の身体だった。
ただ、ユニフォームから見える肢体が、不健康なほどに真っ白だった。
一見病弱なのかと印象を受けた肌は、女子の間では羨ましいと、何度も腕を触られたりしていた。
「日焼け止めは何使ってるの」
「ボディクリームは何使ってる?」
そんな話に目を輝かせる女子たちの注目の的だった。
その白い肌への心配は一瞬にして拭い去られた。
赤く目立つユニフォームと対比するように白い肢体。その身体でコート上を誰よりも駆けまわっていたから、菜子のことは嫌でも目に焼きついた。
ほどなくして3年生の引退した、新体制の運動部。
気持ちも新たになった合宿には、まだ一年生だった菜子の学校のバスケ部は、2年生が二人しかいなかった。いきなり主力になった一年生は、よく2年生のいないところで泣き言を言っていた。
その中には菜子もいて、落ち込むさまが色白い幽霊みたいにも思えた。