偽りのヒーロー
ある日の試合で、2年生が事実上のリーチのかかったファールをして、コートが一年生だけになっていた。
確かあれは、新体制になって初めての公式試合。
試合のパンフレットを見て、初めて6の背番号を背負う菜子が、一年生で唯一の副キャプテンを知っていることを知った。
柱の上級生がいなくなって意気消沈したチームメイト。
下をむくメンバーが暗い顔をして泣きそうになっている中、菜子だけが顔を上に向いていた。
丸くなった4人の背中を叩いては、円を描くように集めて、その手を握りしめていた。何を言っているかは歓声で聞こえない。
けれど、その後あんなに暗かったチームメイトの顔には、にかっと笑みが浮かんでいた。
合同合宿のときだけは、男女ともによく話をした。
お昼の時間や、休憩時間、お風呂待ちの少しの時間。違う学校の子と話すのはどこか物珍しくて、皆一様に談笑する。
「博士」、そうあだ名で呼ばれた部員は、当時の原田だった。
「原田くんって頭いいの?」
いきなりそう問う菜子に、原田は目を丸くした。
博士、それはいかにも勉強ができそうな学位の名前。
原田を呼ぶあだ名を耳にして、そう思ったのだろう。確かに原田は勉強ができるほうだと自覚はあった。それなりに真面目に勉学に励み、元々悪い視力を矯正する眼鏡が、いかにもだっただろうから。
しかし菜子の言葉に原田は頷くことができなかった。
「博士」というあだ名は、成績優秀なことが由来なのではなく、変わった原田の興味をあざ笑うためのものだったからだ。
原田は昔から恐竜に興味があった。
図鑑で見る大きな恐竜は、今では本の上でしか見ることができない。
けれど、博物館に足を運べばありのままの恐竜の姿を目にすることはできずとも、何千年という月日を経た太く荘厳な骨が、原田の目にはひどく輝かしく見えた。
次第に博物館にある、標本にも興味を向けた。
どこを見渡しても、骨、骨、骨。興味のない人から見れば趣味の悪いとも思える博物館には、大きな男女が知らない単語を口にしながら窓ガラスに張りついていた。
「死後もこうやって見られるかと思えば、解剖したかいがあるってものよね」
「人間みたいに言葉を操る動物っていないからね」