偽りのヒーロー
最近入荷したゼラニウム。
一般的には苗を買っていく人が多いハーブで、その苗は大体に葉が覆い茂っている。
切り花に花を単品売りするのが珍しいらしく、売れ行きも良くなかなか好評を得ている。
「ども」
短く言葉を告げると、ゼラニウムを入れた袋をほんの少し上にあげていたのは、感謝のしるし。
思わずイケメンだな、と感心しながら見えなくなるまでその背中を追った。
「……結城くんこそ、よくゼラニウム知ってたなあ。花好きなのかな」
人気のハーブだし、知っている人もいるとは思うが、男の人が知っているとは珍しい。しかも葉の苗木ですぐにわかるなんて、なかなかに了見深い。
それから度々、結城くんは花を買いに来た。毎週のように来る月もあれば、月1だったり。
花の好きな男子高校生なんて、ロマンチストだな、なんて考えるようになっていた。
「それで? 一昨日も買いに来たの?」
「うん。リナリア買ってった」
「リナリア?」と、首を傾げる菖蒲に、これ、と携帯に入った写真を見せて説明した。
「でも、そんな足繁く買いに来るなんて不気味ね……」
「不気味って。あれじゃない? 彼女にプレゼントしてるんじゃないかな。……今はどの彼女か、わからないけど」
話題にあがったのは、クラスメイトの結城についてだった。
最近よくバイト先の花屋に顔を見せており、常連客になりつつあるという菜子の一言から始まった。