偽りのヒーロー

action.14





 2年生になってから、菜子は平日も数回のバイトを入れた。

上級生になってほんの少し余裕が出てきたのと、修学旅行に持っていくお小遣い稼ぎに、と思って。



 普段はすっかり放置気味の携帯を見て、菜子は慌てて未蔓のもとへ駆け寄った。



「ごめん、未蔓。今日バイト入っちゃてさ、楓、そっちにお邪魔させてもらってもいい?」

「別にいいけど。お父さんは?」

「今日送迎会でちょっと遅くなるって。なるべく早く帰るから」

「ん。わかった」



 今日はバイトがない日だった。

しかしながら、店長からの数件の着信を見て、慌てて未蔓へ弟のことを託した。

どうやら自分の子供の風邪をもらってしまったようで、まだ完全復帰には至らない店長の奥さんが、菜子に助けを求めてきたというわけだ。




 夜の10時とか、そんなに遅くはならないと思うけれど、小さな子を一人にしておくのは少し心配で。


小学2年生になって、計算ドリルや漢字ドリルを、3回に1回は自主的にやる楓の姿には感動を覚えるけれど。

少し大人になったけれど、まだ幼い弟を一人にさせるのは、どうにも落ち着かないでいる。



過保護だと楓には鬱陶しがられることもあるが、透明なグラスと耐熱グラスの区別がつかない弟には、まだまだ口酸っぱく言わなければならないのは姉の使命感が試される。


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