偽りのヒーロー



「わあ。びっくりした」



 遠くの玄関から、ドア越しに声が聞こえていた。

淡々と話すいつもの未蔓の話し声。ささやかに聞こえてくる音に、全然驚いてないだろ、とレオは心の中で突っ込みを入れていた。



「うわー、でっかい靴! みつるくんの?」

「ううん。俺の友達の」



 未だ姿を見せない客人は、どうやら室内に足を踏み入れたようだ。

みつるくんと呼ぶ声が、勝手知ったるといったように会話を弾ませている。


しばらくすると、のそのそと歩き出す未蔓の足音を、ぱたぱたと軽快な足音が追っていた。未蔓の何倍もの廊下を踏みしめた足音が、相当に幼いであろうことが窺える。





 未蔓の部屋のドアを勢いよく開け放ったのは、部屋の主ではなく、小さな男の子だった。

部屋に入ってくるなり、ベッドにもたれたレオに標準を合わせると、勢いよく大きなレオの身体にダイブしてきた。どうやら人懐っこい男の子のようだ。

駆け寄って来たその子を、レオは反射的に抱きしめた。



「高校の人?」

「そうだよ」



 ようやく部屋の主が戻ってきたところで、慌てた素振りも見せず、いつもどおりの未蔓の姿。

レオの隣にゆっくり腰を下ろすと、親し気に未蔓と会話をしていた。




 名前も知らない小さな男の子が、手に持ったビニール袋から何やらいくつものお菓子の箱を取り出した。

おもむろにそのお菓子を広げると、「食べる?」と人懐っこそうに笑みを浮かべていた。



「……それ楓のじゃないでしょ。怒られるよ」

「だいじょうぶ! 戸棚の上にもういっこあった!」



 人懐っこいその男の子は、胡坐を掻いたレオの足の上でもぞもぞと座り直していた。


足の間にちょうどいい場所を見つけたのか、足の間に小さな腰を下ろすと、軽い身体を椅子の背もたれのようにレオに預けてきた。



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