偽りのヒーロー
「誰?」
何の説明のない未蔓に、レオは疑問を投げかけた。自分の身体に預けられた小さな男の子のつむじが見えて、思わず頭を撫でた。
「菜子の弟」
「まじかー! へー。姉さんとあんま似てないのな」
遠くからは何度か目にしたことがあるが、そのほとんどは後ろ姿だった。
初めて間近で見る菜子の弟。今初めて会ったばかりの人間にこの懐きよう。すげえ、ただものではない、とレオは感心してしまい、顎に手を当てていた。
「おねっちゃんの友達?」
「そう。立花レオン」
人差し指を自分の顔に向けて、レオはにかっと笑った。
レオの足の中におさまったままの楓は、上を向いてレオの顔を見ようとしている。
何かを思い出したように、レオの足の間から飛び出すと、背筋を伸ばして起立し、「楓です!」と、ぺこりと頭を下げて挨拶をしていた。
生真面目なところは菜子にそっくりだな、と、頭を下げた楓を見て笑みが漏れた。
「かっこいーね! 足もでかい!」
幼い丸みを帯びた楓の足が、ぺたりとレオの足裏と合わさる。背比べならぬ、足比べ。
「すごいすごい!」と興奮している楓を見ると、菜子もこんなんだったのかな、となんだか可笑しくなってくる。
「でかいのは足だけじゃねえんだぜ?」
すくっとレオが立ち上がると、楓が見上げるほどの大きさになった背丈。初めて見るその高身長を目の当たりにして、楓はさらに歓声をあげた。
「わあ! かっこいー!」
あまりに素直な言葉で褒められて、レオは少し困惑した。
そのあと誇らしげに鼻を掻いてみせると、じっと一点を見つめる未蔓と目があって、調子にのってはった胸を丸くした。
身長、手のひら、足の大きさ。
腹筋までも楓に披露してみせると、面白いように褒めてくれる。
筋の入ったレオの腹筋に、「うちはおとうさんもおねっちゃんもこの線ないけど、大丈夫かな?」と、不安げに目尻を下げていて、レオと未蔓はぐはっと噴き出し笑い合った。