偽りのヒーロー
楓にひとしきり褒め倒されたあとは、3人でトランプをして遊んでいた。
所詮は小学生だと侮って始めた7並べには、ことごとく敗北に帰する。
うあーと声を荒げて「誰だよ、7止めてんの!」と喚くレオに、楓が得意げに「僕でしたー!」と上がりをきめこんだ。
「れおくん、まだまだ甘いね! おねっちゃんなら5でも10でも止めてくるよ!」
「こえーよ……。あいつこんな小さい子に何教えてんだよ……」
「英才教育」
手に持った数枚のトランプを、レオは放り投げ頭を掻きむしった。けたけたと異なるトーンの笑い声が重なり響くころ、くう、と小さな腹の虫が鳴っていた。
「お腹減っちゃった」
お腹に手をあて、楓が未蔓のほうを向いた。どうやら可愛らしい控えめな腹の虫の音は、楓のものだったらしい。
薄暗くなった外は、お尻のポケットに入れた携帯を確認すると、既に6時をまわっていた。
自室のドアを開け、「レオも食べてく?」と未蔓が振り向くと、「俺はいいわ」と、手をふった。
未蔓のいなくなった部屋で、自分の部屋かのように寛ぐ楓。
床に寝転がる楓にじゃれるように、レオも寝転がると、「平成26年度 双葉中学校 卒業アルバム」という文字が目に入った。
本棚の一番下に整列した本の中から、それを手にかけると、「うちにもおなじのあるよ」と楓がレオの顔を覗く。
卒アルくらい見てもいいだろう、と本棚から卒業アルバムを引き抜いた。ずっしりと重みを感じるそれを、ケースの中から抜き取ると、重厚な装幀がきらきらと光っている。
「姉ちゃん何組だったん?」
「びーくみ!」
床に寝そべったレオの横に、楓はぴったりと寄り添った。
慣れた手つきでページを捲ると、小さな指が、これ、と菜子の写真を指さした。
「ふっ。全然変わってねえじゃん」
今より若干のあどけなさが残る顔。髪の毛も、今よりずっと短かった。
しかしながら、既に成長期を迎えているであろう女生徒たちの笑顔は、男子生徒に比べて大人びて見える。
「こっち、みつるくんいるよ」
楓の誘導に、どれどれ、と視線を動かすと、今より髪の短い未蔓が写っていた。
髪も結っていないし、今のメガネと全然違う。