偽りのヒーロー
同じクラスの一年一組、結城紫璃。
彼の整った容姿が女性をくすぐり、彼女がきれることない生活を送っているという。
高校に入学してから数か月、既に数人の女性、しかも同級生から上級生までと幅広い女性に告白をされては受け入れる。
その上、短期間での交際を経て破局を繰り返すことから、女をとっかえひっかえしている男の子だという印象が強い。
入学当時は朝の挨拶もそぞろに、関わることのないただのクラスメイトであった。
しかし最近はバイト先によくきてくれることもあり、以前よりは言葉を交わす頻度も増えた。
「おはよう」とか「ばいばい」とか、無難な世間話が多いのだが。
紫璃はレオと仲が良いようで、よく下駄箱のところでだべっているのを見る。
そのおかげというべきか、当初のとっつきにくそうなイメージは今はない。
「……結城がわざわざ彼女にプレゼントとか、そんなことするかしら。私、嫌いなのよね、アイツ。食い散らかすのは別にいいけど、そのたび女が教室来るでしょ。空気悪くなるのよね。よそでやれって感じ」
菖蒲の言い分は、確かに的を射ていた。結城の傍にはいつも女の人がいるからだ。一緒にいる、というには多少の語弊があるかもしれない。
彼女らしき人たちが、教室に来ては結城を誘ってどこかへ姿をくらまし、一人で帰ってきたかと思えばそのあとを口を尖らせた女の人が追ってくる。
菖蒲のいう空気が悪くなるというのは、その後教室のドアの傍で何か言い合いになっている場合が多いからだろう。
声をかけるのも憚られるし、遠いもう一方のドアで行き来するクラスメイトはたまに渋滞を起こしているのは、ちょっとしたアリの行列みたいになって、少しだけ面白い。