偽りのヒーロー
隣に身体を並べる楓とふと目が合って、レオはにっこりと微笑む。すると楓は、まじまじと顔を近くに寄せて、目を輝かせて口を開いた。
「わ! れおくんの目って、ばらみたいな色なんだね! すごーい、きれいな目!」
「……薔薇?」
「うん! しってる? 青いばら!」
その言葉にレオの眼差しはゆらりと揺れた。だって、あのときの、あの女の子の言葉と全く同じだったのだから、あまりの偶然に驚いて。
あどけない菜子と未蔓の写真を穴が開くほど見た後は、見慣れない生徒の写真に目を移す。
パラパラとクラスの集合写真や部活の写真、修学旅行や文化祭の行事の写真と様々。どれを見ても、知らない人たちの中で、今の友人が微笑んでいるのが、見慣れないせいか、胸に違和感を覚える。
「楓ー」と呼ぶ未蔓の声に、軽々と腰をあげて駆けだして行ってしまった。手持無沙汰になったレオは、再び本棚に目を向けた。
よく見てみると、もう一つ、重厚な背表紙の本が並んでいる。こっちは小学校の卒アルだろうか。レオは好奇心に駆られて、何の気なしにそれを開いた。
「この子……」
ひまわり畑や、ラベンダー畑。はたまたビニールプールに入って笑みを向ける男の子と女の子。
男の子はきっと未蔓だろうが、この女の子は誰だ。見覚えがある、いや、そんなものではなく。
いつしかの、俺に救いの言葉をくれた、可愛いヒーローそのものではないだろうか。
ふわふわの特徴的な髪の毛に、いくつかの写真に写っている白いワンピース。服に負けない白い肌。
それは、幼い頃公園で見た、あの女の子。
——なんでないてるの? あおい目、きれいなのに。そんなにごしごししたらもったいないよ。赤くなっちゃう。せっかくキラキラしてて、青いばらみたいなのに。
記憶が呼び起こされて、幼い女の子の声がレオの頭の中に木霊した。