偽りのヒーロー
思わずそのアルバムを手に持って、ダイニングにいる未蔓のもとへと駆けだした。
「みみみ、ミッツ! これ誰!?」
焦りを隠せず、言葉がスムーズに出て来なかった。
噛み倒しても尚衰えないレオの勢いに圧倒されて、未蔓は慰撫し傾げな目でレオを見る。
慌ててレオが開いたアルバムに視線を向けると、怪訝な顔で眉を潜めて「俺だけど」と小さく漏らした。
ぎょっとしてレオは開いたはずのページを見ると、砂のトンネルに手を入れた男の子と女の子が笑顔で写っていた。
「じゃなくて! こっちの女の子だよ!」
とんとんと写真を指さすと、「菜子でしょ」と言葉身近に告げられた。
レオがヒーローと称賛している、あの女の子と同一人物ではないのだろうか。
今の菜子とは、なんだか違うように思える。成長を遂げたからかもしれないのだけれど。
だって菜子の髪の毛はまっすぐで、こんなにふわふわしていない。真っ直ぐな髪は、猫っ毛なのか、湿気の多い日は紫璃のあげたシュシュでくくられていることが多いのに。
「菜子は天パだからね」
当たり前のように話す未蔓は、レオの狼狽えた態度を気にも留めず、食卓に皿を並べた。カレーのいい匂いが漂って、テーブルに置かれたコップは既に汗をかいている。
カチャカチャと、スプーンとフォークを出すと、あ、と思い出したように未蔓が口を開いた。
「天パのことは内緒だった」
ずっこけるくらいの、脈絡のない言葉。幼馴染の伝家の宝刀、豆知識。違う、そうじゃない。レオの聞きたいことは、そんな言葉ではないのだ。
「……ミッツって、小学校どこ?」
「二小」
それを聞いて、「そっか」と、どこか期待した答えではないことに肩を落とした。
どうやら未蔓と菜子の二人が通っていた小学校は、レオのいた学校とはほど遠い。
あの女の子と出会った公園は、近所の子ばかりだったし、その上同じ小学校の子のたまり場になっていた。
——頭が混乱している。
何もかもふわふわとした宙に浮いたような気持ちが、レオの足元をおぼつかなくさせる。混乱しきりで何も考えられなくなって、ついには未蔓の家を飛び出した。
「ごめん、俺、帰る!」