偽りのヒーロー
勢いよく飛び出したレオを、未蔓と楓が呆然とその背中を目で追った。
未蔓の家には持ってきていたはずの通学用のリュックも背負わずに、着の身着のまま家を出て行ってしまった。
玄関には、「うわ」と未蔓によく似た声が聞こえていた。
内鍵を閉めて、カバンを引きずるその音は、未蔓の弟の萩司(しゅうじ)のものだった。
「……今の誰? あ、楓いたのか」
「おかえりなさーい。今のね、れおくん。おねっちゃんとみつるくんのともだちだって」
「……すげえ走っていったけど。あれ高校生なの? こわ……」
深く刻まれた萩司の眉間の皺に、楓が柔らかい指でぐにぐにと押していた。足をバタバタさせて、よく似た顔の兄弟が、同じ顔をしているのを見て笑っている。
どこから取り出したんだろうか。未蔓は自分でも記憶から薄れていた幼い頃のアルバムに触れた。
レオは慌ててキッチンのテーブルにそれを置いたまま、駆けだしてしまった。帰り支度もせずに、本当に勢いのまま帰ってしまったようだ。
なんだったんだろう。
菜子を見て驚いていたように思うが、レオが指さしていたその写真を見て、未蔓は首を傾げた。
確かに昔からコンプレックスだと言っていた菜子のひらひらとした髪の毛は、今ではアイロンだか矯正だかで、真っすぐにはなっている。
けれど、顔なんてそんなに変わっていない気がするのだけれど。
不思議に思った未蔓は、アルバムを閉じると、レオに忘れ去られたカバンをどうするか、という疑問を新しく考えていた。