偽りのヒーロー



 チャイムの音に、楓が勢いよく駆けだした。

こんばんは、という言葉に被せるように、楓の「おかえり!」の言葉が響いた。楓は姉に飛びつくと、菜子は慣れた手つきで楓の頭を撫でている。



「遅くなってごめんね」

「ううん! れおくんと遊んでたから、だいじょうぶ!」

「何? レオ来てたの?」



 未蔓の家族と、楓の小さな靴しか並んでいない玄関をきょろきょろと見回す。

のそのそと玄関にやってきた未蔓に、手土産のアップルパイを手渡すと、なぜかを舐めまわすような視線で見つめている。

菜子はその視線には一向に気づく気配もなく、「あのね」、と楽し気に話す楓に、うんうんと耳を傾けていた。



「……レオ、カバン忘れてった」

「え、なんで?」



 さあ、と呟く未蔓を見て、菜子も首を傾げた。





 キッチンから顔を覗かせる萩司の顔を久しぶりに見て、菜子は感嘆の声をあげた。

思春期なのか、前は「菜子ちゃん」と可愛らしく呼んでいたその声は、今ではすっかり大人になっていて、その成長に、菜子はなぜか親心に似た気持ちが芽生えていた。

あまりに目を輝かせて萩司を見る目と、ふわりと香る食欲をそそるカレーの匂いで、玄関に立ち往生していた。



「菜子ちゃんも食べてけば」



 素っ気ない萩司の声がキッチンのほうから聞こえてきて、その日菜子は未蔓の家で夕食をごちそうになった。



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