偽りのヒーロー
夏の強い日差しに透けて、白い肌が光っている。
夏になると良くまとめられるその髪は、冬には見えないやはり白いうなじが見えている。唇だけは、血色が良いのか熟れたように赤いけれど。
体が熱い気がした。夏の季節だ、自然の摂理かもしれないが。なんだか頭もぼうっとしているように感じる。教壇に立つ先生の言葉もよく聞き取ることができないし、黒板の文字もよく見えない。
レオはおもむろに下を向くと、ぼたぼたと、置き勉していて皺ひとつない教科書に、いくつかの赤い染みが落ちていた。
「大丈夫!?」
視界が定まらないレオは、あくまでぼうっと佇んでいた。
心配する声の主だけは見えているのに、身体が自由に動かせない。微動だしない身体を見てポケットからティッシュを取り出すと、菜子は当然の如くレオの鼻にあてがった。
じわっと赤い染みが広がるのを見て、初めて自分が鼻血を流していることに気づいた。
「先生、立花くん具合悪いみたいなので、保健室連れていきます」
だるい身体をゆっくりと持ち上げると、「大丈夫?」と小さく心配する声が聞こえる。体調不良で丸くなった身体は、自然と菜子の顔を近くさせる。
くりっとした目、赤い唇。それを横目で見ると、胸が痛くなった。
隣に立つ菜子の匂いが、鉄の味でよくわからない。
せめて触れるのは許してくれと、介抱されるこの状況に甘えて、菜子の体温が伝わるほどに寄り添った。