偽りのヒーロー
「立花くん、あなたこの前も氷のうもらいに来たばかりでしょう。具合悪いならちゃんと言いなさい」
保健室に入るなり、養護教諭に小言を投げつけられながら、体温計を手渡された。エアコンが効いていて、教室よりもずっと涼しさが身に染みる。
ピピッ、と小さな機械音が聞こえると、体温計を取り出した。38.1℃と書かれたそれを、先生に手渡すと、はあ、と呆れかえったようにため息をついていた。
「熱中症……ではなさそうね、風邪かしら。夏だからって油断しちゃだめよ」
カーテンで仕切られた空間へ足を運ぶと、ギシっと音を立ててベッドが軋む。そのままベッドに横たわると、先生がシャーッと軽快なレールの音と共に、カーテンを閉めていた。
「とりあえず、寝てなさい。具合が良くならないようなら早退したほうがいいわね」
授業中に涼しい保健室で寝られるって、なんて優越感なのだろう。頭に伝う柔らかな氷まくらと冷たさが心地いい。
(そういえば、ここまで連れてきた菜子の腕も柔らかかったな、って違う違う!)
目元に手の甲を当てると、邪念をかき消すようにぎゅっと目を瞑った。
カーテンで閉め切られた個室のような空間は、少し特別な自分だけの空間で束の間の冷静さを与えてくれる。
ここ数日、いろいろと思い悩むことばかりで、ろくに髪も乾かさずにエアコンの風に晒したままにしていた罰があたったのだろうか。
英語のテストで32点をとったレオの頭で、頭を全速力で回転させると、いつしか瞼が重くなってしまっていた。