偽りのヒーロー
action.16
「お父さん、おねっちゃん! 見て!」
二度目の夏休みに入ってすぐのことだった。
楓が一人、爆笑しながら家族の前で水着をちらつかせていた。小さな子供用の、海水パンツ。「行儀が悪いからやめなさい」と父のお叱りを聞いたところで、一向に止める気配はない。
たっぷりと焦らして、二人の視線を窺っては、「聞きたい? 聞きたい?」とそわそわしてる様子がどうにもおかしい。
聞いてほしいくせに。そう思いながら、菜子と父は顔を見合わせた。
「すごいでしょー! 見てこれ! 今日プールいったら丸出しになってたー!」
きゃっきゃっとはしゃぐ楓が何を言い出すかと思えば、小さく丸められた海水パンツが、楓の手によって、ひらりと開き全貌が明かされた。
いまにも真っ二つにちぎれんばかりの海水パンツ。それは、いくら小さいとは言っても男の子のそれを隠しきれないほどの、大きな穴が開いていた。
「丸出し!? 楓、まさかそれでプール入ったのか!?」
「ううん。こういしつで着替えてたら、ぽろっとしてた! それでー、プールのお兄さんがだめだっていうから、うちでゲームしてた」
慌てふためく父に、楓がけろりと話している。
けたけたと笑っていたが、楓がまだ小さいことに、こんなにも感謝したことがない。青ざめた父が、菜子に助けを求める視線を送っている。
そういえば、と菜子は今日のしがな一日を思い出す。
バイトが休みだったおかげで、晴空の下で服や布団、あらゆるものを洗濯していた。冷凍庫にストックする白いご飯を、ラップで茶碗一杯分包んだり。人が出払った日中に、お腹を空かせて困らないように、タッパーにおつまみ程度のおかずをこしらえて。
一人でのどかな一日だと思ったいたら、プールに出かけたはずの楓が友達を連れて来てんやわんやになっていた。
4〜5人の小学2年生の男の子は、驚くほどに元気なのだ。
座ってといえば立ち上がるし、静かにしてといえばげらげら笑い出すし。その上みんな夜ご飯が入らなくなるのではと心配していくほど、おやつをばくばく食べている。
帰る頃には、まるで台風が去っていったようだった。
わざわざこれが見せたくて、父が帰るまで待っていたのか。二人いっぺんに驚かせようと企んで。
「だから新しいみずぎ、買いにいくー!」