偽りのヒーロー
意気揚々と駆けだした楓の声で、下を向いて笑っていた菜子は顔をあげた。
「わー! すっごい偶然だね。みんなも買い物?」
なんとも偶然な鉢合わせだった。
レオは楓を抱き上げているし、菖蒲は目を見開いている。原田は困惑しているのか、ぴくりとも動いていなかった。
「この人はじめて見るね、だれ?」
「直っぴだよ。お姉ちゃんの友達」
「なおっぴ!」
姉弟の会話を聞きつつ、偶然鉢合わせてしまったせいか、皆の人が良すぎるのか。誰一人立ち去ろうとすらせず、皆、言葉のタイミングを窺っているようにも思えた。
「あやめちゃんは、どこかいくの? おれはね、おねっちゃんとこれからごはんだよ!」
「あ、私はね、買い物っていうか、バイトまでぶらぶらしようと思って」
話を聞いてみると、菖蒲はバイトが始まるまでウィンドウショッピングを楽しみに街へ来たのだという。
レオは家電量販とレンタルDVDを漁りに、あわよくば数年前のスターヒーロズという戦隊もののセルDVDを買いたかったと話す。
「直っぴは?」
「お、俺は、その……歌の練習しに、カラオケに……」
言い出しにくかったのだろう。顔を真っ赤にして俯いた原田の言葉は、尻切れになっている。
高校に入ってわかったことは、何かにつけてカラオケに行くタイミングがあるということだ。
現に菜子も、入学してから懇親会という名目でクラスメイトにカラオケに行ったし、今では既に懐かしさを感じる合コンもカラオケだった。真面目だな。菜子は原田の俯いた顔を見てうんうんと頷いていた。
「ヒトカラってやつな! なんだよ、どうせならみんなで行こうぜ! 直っぴくんには〜、聞きたいこともあるしい〜?」
じろじろと視線を向けながら、レオは原田の肩に手をまわした。体格のよいレオのするその光景は、カツアゲにも見えなくはない。
菜子が苦笑いをしていると、「真似しちゃだめよ」と、菖蒲が楓の頭を撫でていた。