偽りのヒーロー
最後まで一緒に行くのは嫌だと敬遠していた、原田と菖蒲が嫌々カラオケに足を運んだのは、可愛らしい楓の行きたいの一言だったと思う。
初めて入るカラオケ店に、目を輝かせては、ドリンクバーに何度も足を運んで、下手くそに盛り付けられたソフトクリームを全員に振る舞っている。
「ごめん、つき合わせちゃって」
菜子が菖蒲と原田に耳打ちすると、揃っていいよと笑顔を浮かべていた。
狭い部屋に高校生が4人と小学生が1人足を踏み入れると、照明が調節可能だと知った楓が、明るくしたり暗くしたりを繰り返している。
食べ損ねたお昼のご飯を、せっかくの初体験のカラオケ店で食べようかという菜子の提案に、大きな目が輝きを放っていた。
「おれ、ちゅうもんする!」
室内の入り口付近に取り付けられた電話で、たどたどしい言葉で店員に注文するそのさまを、ドキドキしながら見守った。
無事にからあげとポテトの盛り合わせ、合わせのキャベツが来て安堵したのもつかの間、注文していいよと楓にゴーサインを出していなかったはずの、やたらにでかいパフェが来たときには小さな雷を落とした。
目的地に来たはずの原田は、一向にマイクを取ろうとはしなかった。それはそうだ、人と来るのが恥ずかしいと一人忍んで来たのだから。
「直っぴ音痴なの?」
「だから練習しに来たんだよ……。あんまり下手だと恥ずかしいし。空気壊すでしょ」
「……私、先歌おっか」
「どうせそうやってそこそこ上手く歌うんでしょ、菜っ子も」
がっくりとうなだれる原田に、「聞けばわかる!」と親指をたてデンモクに指をのせた。堂々とした菜子の態度が原田の羞恥をさらに抉った。
しかしながらマイクに乗って室内に木霊した菜子の歌声は、耳を塞ぎたくなるものだった。