偽りのヒーロー



 菜子が再び部屋に戻ると、入れ替わるようにレオと楓が扉を開けた。「トイレ」と、一言告げてでこぼこな二人が歩いて行った。



 3人になった部屋で、一人はマイクを持って、一人はその姿に目を移し、一人はポテトを摘まんでいた。

ゆとりのある空間で、ひとつ間違えば騒音をもたらすカラオケ店でゆるりと過ごしていると、トイレにしては長時間部屋をあけていた二人が戻ってきた。




 楓は部屋に入るなり、菜子の隣にぽてんと座ると、膝の上に拳をつくって、何やら神妙な面持ちだ。

あまりに真剣な顔つきで、菜子は顔を寄せて、「どうしたの」と訊ねた。



「おねっちゃん、おれ、かいものにいきたい」



 楓の言葉に菜子は拍子抜けしてしまった。

何を言い出すかと思えば、突拍子もない。数時間前に買ったばかりの水着の入った袋を見ると、楓はそうじゃないと首を横に振った。



「れおくんのパンツ、おれのとぜんぜんちがった。おれも、ああいうのがほしい!」



 そういうと、楓はレオを指さした。菖蒲は、幼い男の子の言葉にきょとんとしていた。

レオと原田の二人は、口にしていたジュースを噴き出していたのだけれど。




 そんなに特殊な下着を穿いているのかと、菜子はレオを一瞥した。心当たりがないのだと主張するように、手のひらを必死に振っている。


 小学生のときはブリーフと相場が決まっていると豪語する父が、ずっと可愛らしいブリーフを買い与えていた。

あまりに白く眩しいそれが、なんだか気恥ずかしく見えて、菜子が一緒に買い物に行くときは、トランクスを買っていた。

その二つでないとすれば、ボクサーパンツしかないと思うのだけれど、それは父が穿いている。



一緒にお風呂に入っているときに目にしているだろうに、一体何を見たというのだろう。



「何、レオがそんなすごいの穿いてたの?」



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