偽りのヒーロー
「俺たちも帰ろうか。えっと、これからバイトなんだよね? せっかくだし、……送ってこうか?」
菜子たちに手を振って、背中が見えなくなるころ、原田が呟いた。レオが少しだけ目を細めているのを見て、原田は背筋を伸ばした。
「よ、余計なお世話、かな」
「直っぴよく言った。俺もを菖蒲ちゃん一人で帰すのには反対だ」
腰に手を当てるレオに、菖蒲は怪訝な顔をした。下を向いた菖蒲の長い睫毛が上を向くと「うん」と小さく頷いた。
「ただし、立花は来ないで」
辛辣な菖蒲の一言に、レオは泣く泣く帰路についた。大きな姿勢のいい背中を見送ると、原田が「行こうか」と、顔を綻ばせて歩き始めた。
一度は告白してふられてしまい、隣を歩くことを許された原田は、心臓の鼓動が大きくなるのを感じていた。
話もろくに弾まずに、既に十分ほど経ってしまっただろうか。レオを拒否しておいて、自身だけ並ぶことの許されたその隣を噛みしめるように歩幅を進めていた。
コンクリートで舗装された道を、靴底で踏みしめる音が聞こえる。時折風を切って通り過ぎる、自転車の音だけが原田の心を落ち着かせた。
「あの」の静寂に溶け込みそうな心地いい声に、原田は横を向いた。
「勘違いしてごめんなさい。私、原田くんのこと知りもしないで、ちょっと煙たい人と思ってたの。ごめんなさい」
そう言って、律儀に立ち止まって静かに頭を下げた。原田はほんの少し期待をしてしまった感情をかき消した。
なるほどな、と合点がいく。わざわざ謝罪を述べるためにレオを呼ばなかったのか、と。
やはり軽いやつだと思われていたらしい。高校デビューをしたことを考えたら、大成功といえるだろう。
分厚い目が大きく見えるメガネは昔からからかわれていてコンプレックスだったし、重苦しくていかにも地元の床屋で切ってますと言わんばかりの髪型からも脱却した。
しかしこの違和感はなんなのだろうか、と原田は頭をまわしていた。
菜子にもそのままでいいと言われたのも、ずっとお世辞だとばかりに思っていたのだが、そうではなかったのだろうか。
いつしかの、鬱陶しいと感じているような嫌悪感のある視線は、今は一切感じられない。だからこうして隣を歩いてくれるのだろうけど。