偽りのヒーロー



 行先は、京都、大阪、そして奈良。クラスメイトは、中学のときも同じような場所に行ったと嘆く者も多くいた。

菜子の中学の旅行先は東北だったために、今から楽しみで仕方がない。



「お前さあ、学校でちゅーとかやめろよ」



 新幹線に乗るや否や、後ろの座席からひょっこり顔を出して告げた。辺りを見回し誰にも見られていないと確認したはずだったのにも関わらず、レオの目には入っていたらしい。

「してたの?」と菖蒲が真顔で視線を送り、菜子は顔を赤くした。



「や、うん、だよね。突然のことだったものでね……」



 照れ隠しの軽口も、今日もはどうも歯切れが悪い。じっとりと視線を投げるレオに、菜子は顔を逸らした。うだうだと責め立てられて、逆上しつつも移動時間を過ごしていた。

このときばかりは、紫璃と違うクラスであることに感謝した。こんなにも情けない顔見せずに済むからだ。



「結城?」

「うん」



 ぺこぺこと携帯の画面をタップすると、車内の様子を写真に撮って、添付した。

時折シートに衝撃が加わるのは、後ろに座るレオの足が椅子に当たっているからだ。乗り始めた頃には「やめて」と注意していたけれど、何度言っても聞かないレオに呆れている。



「てかさ、今さらなんだけど……私レオの隣に座ればよかったよね。ごめん、全然気ぃ回んなかった」

「なんでよ?」

「そしたら未蔓の隣だったのに……すまぬ……」



 菖蒲の耳もとでぽしょぽしょ声を潜めて話す。泣きまねをしていると、わずかな躊躇いのあと、ううん、と否定の言葉が告げられた。



 「お土産何買う?」なんて話で盛り上がっていると、「きゃっ」と菖蒲の悲鳴が聞こえてきた。

その視線を追うと、シート背もたれの隙間から、にゅっとレオの大きな手のひらが出ていた。

ひらひらと動く指に触れると、まるで握手みたいに握られて、「何なのこれ」と苦笑するほかなかった。




< 212 / 425 >

この作品をシェア

pagetop