偽りのヒーロー
拝殿から戻ってくる菖蒲を迎えて、お守りやおみくじの置いてある社務所へ足を運んだ。
菜子はどちらかというと、こういったお守りを買うことが、神社に足を運ぶ目的だ。
特に神様を信仰しているわけではないが、お守りを買うことによって満足感が得られるのが好きなのだ。
「菜子、おみくじひかない?」
クラスメイトが細長い紙を見て一喜一憂していた。それを見た菖蒲が目を輝かせて、六角柱の形をした木の筒を指さしている。
「未蔓とレオもやる?」
菖蒲に駆け寄り巫女のような恰好をした女の人。にっこりと微笑まれる中、木の筒を持つと、特段思い入れもないくせに念を込めて筒を振った。
筒から出た木の棒には数字が書いてある。その数字を女の人に告げると、部屋の奥にあるいくつもの引き出しのある棚のもとへ歩いていく。
小さな引出しからは、おみくじの紙が取り出された。手渡されたおみくじを凝視していると、菜子はしゅんと肩を落とした。
菜子の手にしたおみくじ。それには�末吉�と二文字が主張するように書かれている。
『初めのうちは良いが、時とともに迷いが生じる。一時の判断に惑わされるべからず』
不穏なお告げに、菜子はおみくじを握りしめた。本当は今すぐにぐしゃぐしゃにして引きちぎってやりたくなった。
だが神様を信じているわけでもないのに、罰が当たりそうで到底そうすることはできずにいた。
頭の中の紫璃が困ったように笑っている。それを振り切るように、菜子は笑顔を浮かべた。
「微妙ー…。菖蒲は何だった?」
「……大吉、だった」
何が書かれているかまでは聞くことはしなかったが、きっと良いお告げが書かれているに違いない。弧を描く、綺麗な菖蒲の唇が、そう言っている。
「未蔓は?」
「中吉」
「なんだよー! みんなずるくない!? レオは!?」
半ば怒りをぶつけながら、菜子はレオに近づいた。「俺のは普通だから」と、握りしめていた紙を後ろ手に隠していた。追及は、しなかったが、大事そうに、握りしめていた。
『時が来るのを待つべし。思い定めたことにわき目をふらずしっかりと遂げること』
きっと自分と同じような結果のおみくじが並んでいるであろう場所に、菜子はおみくじをくくりつけた。