偽りのヒーロー
人混みを縫うようにやっとの思いでお土産売り場に辿りついた頃には、ずいぶんともみくちゃにされたであろうぼさぼさの髪の毛が、ひらひらと靡いていた。
歩くたびに目につく色とりどりのお土産に、つい目を奪われる。物欲はあまりないものの、あれもこれもと欲しくなるのは、旅行の浮かれ気分がまざまざと露呈していた。
「これ可愛くない?」
菖蒲が差し出したのは、キラキラしたキーホルダー。舞妓さんの傘を思わせる艶やかな細工が、いかにも京都らしいものだった。
他にも所せましと並んでいるお土産売り場は、人の流れに逆らうのも難しいほどに繁盛していた。
売り場の一角に並ぶ、かわいいぬいぐるみをじっと見つめている菖蒲。ゆずみたいなフルーツのぬいぐるみかと思っていたら、ヘタの部分が持ち手になって開く仕様になっていた。どうやら小物入れだったらしい。
キラキラと目を輝かせて、棚に目を奪われる菖蒲に声をかけると、菜子はその場を離れた。
お菓子のお土産コーナーを横目に、京都らしい和柄のカトラリーが並ぶ棚に足を向けた。使い道に困らないし、菖蒲みたいに可愛いものを集めたいわけじゃないけれど、こういうものは少しだけ手が伸びる。
着物みたいな柄は、抽象的な柄の中に花みたいな絵付けがされていて、思わず見惚れてしまうものばかりだ。
近くにある、ぱっと目に入ってきたニチアサの戦隊ものっぽい絵が描いたコップを見て、楓にはこっちのほうが喜ばれそうだな、と笑みを浮かべた。
「それ買うの?」
いつの間にか隣にたつレオに驚き、思わず変な声をあげてしまった。レオの隣に目をやると、いるはずの未蔓がそこにはいない。
「ミッツは疲れたからって、店の前で待ってる」
なるほど未蔓らしい。人混み嫌いな幼馴染が遠出をしてもまるで日常通りで笑みが漏れる。