偽りのヒーロー
「レオはどっちがいいと思う?」
カップを二つ、顔の横に掲げると、レオがじっと見つめていた。あまりにも食い入るような視線に思えて棚にカップを戻したが、それでも菜子の顔を見つめていた。
店内を歩き回ると、菖蒲を思わすキーホルダーやチャームやアクセサリー。
菖蒲も買ったかな、なんて思っていると、二人の男女がキーホルダーを手に取っているのが見えて、菜子はその姿を目で追った。あの二人はつき合っているのだろうか。笑い合いながらレジへ向かう見知らぬ二人を見て、菜子もキーホルダーを手に取った。
ガラスの中に閉じ込められた、花の敷きつめられた中の折り鶴が二羽。青と赤の鶴が、男女を連想させるように思えて、それを二つ、手に取った。
無事に戦利品を購入できたことで、菜子の顔は綻んでいた。
家族に買った和柄のマグカップに、京都名物のお菓子を数箱。自分用にと使うかどうかはわからないが、京都らしいクリアファイルに舞妓の付箋。
それと、一緒にまわれていない、紫璃へのキーホルダー。色違いだがお揃いだなんてあまりにベタすぎるだろうか。
小さな袋に包まれたそれをカバンの中に収めると、神社で買った学業成就のお守りが袋の中から飛び出していた。
「あれ? 未蔓は先に待ってるんじゃなかった?」
お土産を買い終えると、店の出入り口の前に一人佇むレオに声をかけた。未蔓は先に待っているということだったはずなのだが。
店の中で一旦別れたはずの菖蒲もいない。慌てて携帯を取り出すと、レオが携帯の画面を見せつけるように差し出した。
『人混みに流された』
シンプルに刻まれた文字は、そう書いてあった。能天気な未蔓の連絡に菜子は溜息をついたが、次のレオの提案に小首を傾げることになる。
「二人でまわるかー」
しかたねえな、なんて言いながら、レオは携帯の画面を操作していた。未蔓へ電話をするらしく、耳に当てると別行動だと告げている。
思わずぎょっとした菜子が、レオの身体を揺さぶると、菜子には何も言わないまま電話を切ってしまった。