偽りのヒーロー
「未蔓はなんて? 菖蒲も一緒? ていうか菖蒲、未蔓と二人っきりになるよ。いいの、大丈夫?」
口うるさく言う菜子に、「探してる時間がもったいないだろ」と、笑みを浮かべている。
レオがいいならそれでもいいのだがしかし、菖蒲と未蔓は二人で並んで歩くわけで。雰囲気で手をよることもあるかもしれない。菜子にとってはそれでも何も問題はないのだが、レオはそれでもいいのだろうか。あんなにわかりやすく、菖蒲に好意を向けていたはずなのに。
レオの顔を覗くと、不安だろうとばかり懸念していた感情は微塵もないようだ。それでいいのだったら、いいのだけど、と菜子は携帯の画面をタップした。
「紫璃に連絡しようとしてる?」
「え、そうだけど。何?」
アプリを開いた菜子の携帯の画面を、見えないようにレオの大きな手のひらで覆われた。操作の利かなくなったその携帯を取り上げると、画面が真っ暗になったのを確認し、菜子の手の中に戻した。
「余計な心配させっから、連絡しないほうよくね? あいつ意外に嫉妬深いからなー」
けらけらと笑うレオの顔を見て、菜子は「そう?」と小首を傾げて、ポケットの中に入れた。
余計な心配。男の人がそういうのだから、きっとそうなのだろう。疑問にも思うことなく、素直にレオの隣を歩いた。
別行動にはなってしまったものの、事前に決められている日程通りに街中を歩いていた。
どこかで菖蒲と未蔓の二人に会うだろうという考えは浅はかで、ちっとも二人に遭遇しそうな予感すらない。
一方レオは、観光を楽しんでいるように見えた。
時折買い食いなんかをして、気づけばどら焼きを半分こしたり、当たり前のように二本の団子のパックを手にしていたり。
楽しんでいるのが少しだけ申し訳なく思う頃、人の波に流され菜子は混乱していた。