偽りのヒーロー



「まずいな、はぐれちゃったよ……」



 辺りを見回して、きょろきょろと道のりを確認する。碁盤のように規則的に交差した道のりは、歩けば歩くたびに頭がこんがらがってしまう。

地図アプリを開いたところで、地図なんてちっとも読めないし、もう人に道を尋ねるしか方法はない。



 その前にどこにいるかだけでも聞こう。

そう思ってレオの名前をタップしようとすれば、タイミングよく携帯の画面にレオの名前が表示されていた。

レオは、第一声が怒号で、菜子はそっと耳から携帯を離したのだった。




 離れて行動する二人にも連絡しようか。でも邪魔をしてしまうだろうか。

レオにその場を動くなと怒られてから、10分ほど経っていた。ポケットに忍ばせた携帯を見てみると、いくらボタンを押しても画面が真っ暗のまま。

まずい、と命綱になっているその小さな電子機器を握りしめると、後ろから声が聞こえる。



「ね、一人? どこから来たの?」



 その声に、なにも返答はないようだ。無視するなんていい度胸だな、なんて周囲を見回すと、菜子の後ろに二人の男の人が立っていた。

振り向くと、視線が合った二人の男性が、「キミに言ったんだけど?」と菜子を囲むように話しかけている。



「えっと、修学旅行で来ただけなので……」



 菜子は口を開いてから、ようやく答える必要はなかったことに気づく。えっと、と言葉を濁したところで時すでに遅し。

動揺して、操作の利かない携帯を握りしめた。

「案内しようか」「泊まってる場所どこ? 送ろうか」なんて甘い言葉に区別がつかないような歳でもない。一旦その場を離れてし凌ごうか。けれど離れたらもう同じ場所には戻れないだろう。

困惑する菜子に追い打ちをかけるように、二人の男性は腕を引き、腰に手を添え、慣れた手つきで力がこもった。



「すんませーんっ。こいつ俺のなんすよー。はぐれちゃって。申し訳ないっす。付き添っててくれてあざっしたー」



 腰を低くしたレオが、菜子の手をとってその場から連れ出した。困惑したままの菜子は、頭が真っ白なままレオについて行く。

しばらく歩いたところで、急停止した反動でその背中にぶつかってしまった。



痛みを感じる鼻先に手を添えると、振り向いたレオが怒ったような面構えになっていた。


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