偽りのヒーロー



「ま、まあ、ほら。あれでも食って元気出せよ!」



 レオの視線の先にある甘味処。カップに入った緑色わらび餅を持った人がたくさんいた。

暗くなったこの雰囲気を明るくしてくれようとしたのだろう。ころっと笑顔を浮かべて、レオは駆けていく。

我先にと背中が小さくなるのが見えたけど、慌てて引き返すと、菜子の隣を歩き出した。



 レオが買ってくれたわらび餅が消えてなくなる頃には、すっかりと笑顔が戻っていた。軽口をたたけるくらいには、菜子もレオも話ができた。

それでもやっぱりレオにはちょこちょこ会話の中にお叱りの言葉が聞こえてきたけれど、自業自得なのだ、菜子はそのたび謝った。




 菖蒲と未蔓の姿が確認できると、菜子はほっと胸を撫で下ろした。
レオと顔を見合わせると、いつものように明るい笑顔に戻っている。


「もう勝手にどっか行くなよなー」と、笑い交じりの叱咤にも、うん、となんなく返しができる。
頼りにしてる、とバシバシとレオの腰を叩くと、大きくなった二人の姿に駆け寄った。



「……なんだよ」というレオの呟きは、菜子の耳には届いていなかった。



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