偽りのヒーロー
ホテルでの夕食を満喫すると、部屋に戻るなり、ベッドにダイブした。菖蒲との2人部屋。二日目にして、既に自宅かのような寛ぎようだ。
「今日、大変だったわね」
菖蒲がくすりと笑いながら口を開いた。
あの後、菖蒲と未蔓と合流すると、一気に安堵してしまい、涙を堪えた顔が、鬼みたいだと笑われていた。ごめんと謝ったけれど、謝る必要がないなんて言ってくれたのには助けられたと言ってもいい。
「ごめんね、ほんと。……あのさ、未蔓と二人でどうだった?」
偶然と言えど、せっかく気になる人と二人きりでいられたのだ。何か進展があったのではないかと期待していた菜子のわくわくは一気に崩し落とされた。
「普通に話せたかな」
「……普通?」
「うん。普通」
しっかりと菜子の耳に届くように、繰り返し言葉にした。
普通ということは悪くはないのだと思うのだが、良いとも言えなさそうなその言葉に微妙な顔つきになった。
険しい形相になっていたのか、「顔」と菖蒲が笑っていて、手のひらで表情筋をぐにぐにと和らげた。
修学旅行に来てから、菖蒲は度々携帯を気にしていた。
画面が光ると、そわそわと確認しはじめ、時折、ふ、と笑みを漏らすのが目に入っていた。
ずっと気になっていたのだが、携帯の画面をタップしている菖蒲を、ベッドの上で正座をしながらじっと見つめていると、「原田くんだよ」と告げられた。
「なんだ、直っぴか」
期待していた返答ではなく、菜子はベッドに寝そべると、頭を手で支えて、まるでリビングで寛ぐ親父みたいな姿勢をした。