偽りのヒーロー
同室の未蔓には来たというのに、自分にはまったく来ない連絡。真っ暗い画面のボタンを押すと、菜子の名前を呼び出した。
じっと見つめて、それ以上のアクションは起こせない。
レオは、だらんと携帯を捨てて、ベッドに身を投げた。大きな自分の身体を支えるベッドが軋んでいる。濡れた頭を枕につけると、額に手を当て光を遮る。
暗くなった視界でゆっくりと脳裏によぎるのは、菜子だった。菜子の顔が、怯えていた。泣きそうな顔が頭にこびりついて離れない。
掴んだ手のひらがあまるような腕の細さだった。
女子の平均よりも高いその身長も、レオからすれば頭のつむじが見えるくらいに低い。
大きく見えたその背中もずいぶんと華奢な背中をしていた。
零れ落ちそうなほど大きな瞳は涙で濡れていて、赤い唇はふるふると震えていた。
——ヒーローなんかじゃなくて、まるで、ただの女みたいじゃないか。
困惑したのは菜子だけではない。
こうやって、目の前にいない人物のことを考えて、勉強ができないと自覚している頭で悩ませるくらいには困惑している。
できることなんて、何もない。菜子と隣には、一端の騎士みたいな彼氏がいる。
そんなのはわかっている。わかっているのに、頭の中から出ていってくれないのだ。