偽りのヒーロー
action.18
きょろきょろと辺りを見回し、人影がいないのを確認すると、菜子は一人窓際に佇む影に駆け寄った。
「紫璃ー」
久しく会うような錯覚も、頭に触れた手のひらで一瞬にして距離感が縮まる。
「お前、家感すごいな」
菜子の姿を見て、紫璃はくくっと肩を震わし、口角を上げた。
黒いスウェットのズボンに、ライトグレーのトレーナー。ひっそりと胸元に添えられたスポーツメーカーのロゴ。
一軍の部屋着をひっぱりだしてきたつもりなのだが、やはりおしゃれさはあまり感じられないらしい。
一番に驚いたのは菜子自身だ。
ホテルの中ですれ違う女子生徒の大半が、なんとも可愛らしい服を身に纏っていた。
パーカーのワンピースにレギンスを穿いた子や、もこもこふわふわしているパステルカラーの服を着た子、乙女思考の菖蒲の服より、ずっと可愛い服を着ていた。
菖蒲はと言えば、部屋の外で会ったときにピンクの服を着ているところを見られたら困る、なんて相変わらずの意地をはり、チャコールグレーのスウェットを着ていた。
上のフレンチボーダーのパーカーと、バイピングのレースのせいで、可愛らしさは十分に散りばめられていたけれど。
「紫璃は何着てもかっこいいね」
ダークグレーのスウェットのズボンに、少し首元の開いたラグランのシャツは、骨ばった鎖骨と女にはないでっぱたのどぼとけが見えている。
目を輝かせて見つめる菜子に、「やめろ」とくすぐったそうに笑っていた。