偽りのヒーロー
ようやく迎えた自由行動の日に、菜子は少しばかりおろおろとしていた。
大きな広いテーマパーク。生徒全員を一度に収容しても、まだまだ広場に余裕がある。班別行動となるこの日だけは、クラスが関係なく集まる一度きりの重要なチャンスなのだ。
菜子が紫璃と行動を共にしてしまえば、菖蒲が一人になってしまう。
未蔓と二人きりならなおのこと、レオもいるのだから、なんとも気まずい状況になるのではと懸念していた。
しかしながらいいよ、と送り出してくれた菖蒲は、自分も途中で少しだけ抜けたいから、と交換条件さながらの意見をくれたのだ。
意気揚々と紫璃と落ち合う姿を見て、3人になった空間には、わずかに静かな空気が流れている。
テーマパークにもかかわらず、どこにも移動しようとしないその空気にいたたまれないレオが、「俺たちもどっか行く?」と明るい声をあげた。
「レオは行ってきていいよ。俺、ここいる」
未蔓のその一言に、レオはその場に腰を下ろした。
建物の影に身を寄せると、未蔓は慣れた手つきでカバンの中から携帯ゲーム機を取り出した。わざわざテーマパークに来てまで、とは言わなかった。
数日同じ部屋に泊まって既にわかっていたことだ。自分にはよくわからないが、無線で近くにいる人とチームやら何やらで一緒にゲームができるらしい。
すぐに画面を食い入るように目を奪われると、珍しくこんなにも近くにいる女の子に話しかけた。
「菖蒲ちゃん、あのさ」
ん? と目をぱちぱちさせる顔がこんなにも整っている。
綺麗に上がっている睫毛も、つやつやした唇も、ひらひらとしたウェーブの髪の毛も。女性らしさを絵にかいたような女の子なのに。
おもむろにレオの隣に腰を下ろす菖蒲に、心臓が跳ね上がる。やっぱりドキドキしている。胸がどくどく早くなっている。
この気持ちが恋じゃなかったら、一体なんだというのだろう。
「……俺は、菖蒲ちゃんが好きなはずなんだけど」
ぽつりと呟くレオの言葉に、菖蒲は眉間に深く皺をよせた。
「何の冗談よ」と呆れ顔で話す菖蒲と言葉を聞いて、冗談に聞こえてしまうのかと肩を落とした。