偽りのヒーロー




 紫璃と一緒に買い物でも楽しんだのだろうか。

テーマパークの絵柄のついたビニール袋からは、たくさんのぬいぐるみみたいなキーホルダーがでてきた。菜子の趣味ではなさそうなそれは、未蔓に手渡されど、レオのもとには一向にこない。

文句をつけると、口からお菓子の食べかすが飛び出した。



「汚っ! 拭いてよね」



 ポケットティッシュを投げ出すと、シュンとレオは肩を落とす。がくがく菜子の身体を揺さぶると、掴んだ肩はやはり細くて女の人のそれだった。



「これ、萩ちゃんが欲しいっていってたやつだから。萩ちゃん、こういうゆるっとしてんの好きなんだよ。未蔓がまだ買っていないって言ってたから、代わりに買ったんだってば」



 萩ちゃん。誰だよ、と新たに聞く名前は、未蔓の弟だという。しかもレオも会ったことがある、と兄である未蔓の口から聞けばきょとんとした顔を向けた。


菜子の写真を未蔓の家で見たあの日。

未蔓の弟に会ったことすら覚えていないほど狼狽えていたらしい。余裕のない自分が情けなく感じたのは初めてだ。

……格好つけるのが得意な、紫璃と違って。





 頭を振ると、ようやく隣の菜子を見た。

ちらちら向く目の前を通り過ぎる男の視線が、菜子の短いスカートの向けられている気がして、レオはその視線を追った。
あんなにも昨日注意しろと言ったばかりなのに、微塵も菜子には伝わっていない。

レオは苛々した口調で、口を開いた。



「菜子。パンツ見えっからちゃんと隠せ」



 オブラートにも包まれていない直球のレオの言葉に、怪訝な顔を向ける。

しかし昨日の怒ったレオのことを、思い出したのだろう。ごめん、と素直に座り直した。



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