偽りのヒーロー
新幹線に乗り込むと、小雨だったはずの外は、雨粒が確認できるほどの大雨になっていた。雨が叩きつけられる窓にはガタガタと風の強さを感じられ、あろうことか遠くにごろごろと鳴り響く光の走る道が見える。
「外やばくない?」
「これ、着くの?」
そんなざわざわとクラスメイトの不安げな声が車内に広がっている。物々しい雰囲気が、まるで嵐の前の静けさを思わせるようだ。
ゴロゴロゴロ ピカッ
小さな窓から雷が落ちるのが見えた。キャーキャーと車内は悲鳴に包まれている。
しかし新幹線の中には煌々と照明が照らされており、気掛かりなのは、徐行になった新幹線のスピードだけ。
停車駅に止まると、出発時刻のはずなのに、新幹線は走り出さなかった。窓の外に見えるサラリーマンらしき人達が慣れた手つきで携帯を操作していた。
『乗車中のお客様にお伝え致します。当新幹線は悪天候の影響により、運転を見合わせます。運転再開時刻のめどが立ち次第、お知らせいたしますので、今しばらくお待ちいただけますよう、ご協力のほどお願い申しあげます。繰り返します、当新幹線は—…』
車内のアナウンスを聞いて、乗車中のクラスメイトたちは騒然としている。後ろに乗り合わせていた引率の先生たちが、慌てたように通路を行き来していた。
忙しなくなった車内で不安気な顔が浮かんでいた。
「一組いいかー、ここで降りるぞー。荷物忘れんなよ、座席ちゃんと見ろー」
先生たちの緊急会議でもあったのだろうか。戻ってきた担任の教師が、声を張り上げて降車を促す。
訳も分からずざわざわと車内に響く生徒の不安な声を、先生の大きな声でかき消されていた。