偽りのヒーロー



 ホームに降り立つと、菜子たちと同じように制服を着た生徒らがぞくぞくと新幹線から降りてきた。大きな荷物を持って、ざわざわとどこのクラスも同じように騒ぎ立てている。

2年生の主任の先生が生徒の並ぶ真ん前に立つと、大きな声でこう言った。



「えー、新幹線ですが、運転再開のめどが立たないということで、今日は近くのホテルに泊まります。騒ぐなー。明日天候が回復してから改めて新幹線で帰ることになりましたので、あとは担任の先生の指示に従ってくださーい」



 そう言うと、各クラスの教員がパンパンと注目を促すように手を叩く。先生に目を向けてもざわざわとクラスのどよめきは未だおさまりそうにない。



「はい一組注目〜。こんな貴重な経験ないからなー。しかと心のアルバムに刻んどけー」



 主任の先生より若いクラス担任の言葉に、くすくすとクラスメイトの笑い声が聞こえる。

急遽泊まることになった宿泊所は、急な大人数の収容が困難で、各クラスが別々のホテルへ泊まるようだ。



「学校にいる先生から自宅に連絡いれるけど、各自親御さんに連絡することー。点呼終わったら連絡しろー、繋がらない場合は連絡つき次第先生に言いに来るようにー。はいじゃあ点呼とるぞ。吾妻—…」



 点呼を終えると、生徒が一斉に連絡するために携帯を操作していた。

菜子も連絡を入れると、案の定悪天候だとニュースか何かで見ていたのか、すぐに父が電話に出た。

貴重な経験だからな、と先生と同じようなことを言っていて、なんだかおもしろくなってしまった。



 しばらくして生徒の手から携帯が離れるのを見ると、先生が再び口を開く。



「まだ親御さんと連絡取れない人、手挙げろー」



 すっと手をあげた菖蒲が「うち、まだ仕事終わらないから」と菜子に教えてくれていた。名簿らしきものに先生が何かを書き記すと、パタンと閉じて移動を促す。



「一組移動すっからついて来いよー。広がるなー、ちゃんとついて来いよー」



 ぞろぞろと列を成して移動したのはビジネスホテルらしきところだった。

聞くところによると、菜子のクラスが一番近いホテルだという話で、みんなでラッキーだね、なんて話をしていた。



「こんなことってあるんだね」



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