偽りのヒーロー



 部屋に入ると、菖蒲と菜子は話しに花を咲かせた。帰るはずだった日に泊まることになって、余裕ができたのか、ちょっと深い話をしたりして。連日泊まっていたホテルよりもずいぶんと簡素で狭い部屋だったけれど、それが尚のことわくわく感じさせた。



 お菓子をとっておいてよかった、なんて思いながらスナック菓子の箱を開けると、ベッドの上に置かれた菖蒲の携帯が光っていた。

親御さんだろうか。菜子のあとに続いてシャワーを浴びに入った菖蒲が出てくると、連絡があったことを告げた。携帯を耳に当てると、何やら話声が聞こえてきた。



「連絡ついた?」

「うん。笑ってたわ。私、先生に言ってくるね。ついでに自販機で飲み物買ってくる。菜子もいる?」

「じゃ、私お茶」



 そう言って部屋を出ると、テレビも何もない部屋で、菜子は手持無沙汰になってしまった。

鍵はひとつしかない。鍵を持たない菖蒲を待たずして、ホテルの中を探検するわけのもいかず、ぶらぶらと足を揺らした。







 しばらくすると、チャイムのない部屋に、コンコンとノックが響いた。菖蒲の帰りを待ちわびていた菜子が内鍵をあけ扉を開けた。



「どうしたの?」



 ドアの前に立っていたのは、レオだった。

思いもよらぬ人物にきょとんとした顔を向けると、「ちょっと来て」と廊下のほうを指さした。



「ごめん、菖蒲今先生んとこ行ってるから、私部屋にいないと」



 鍵は自分が持っていることを伝えると、考えるように首を捻っていた。


「何?」と菜子が聞いても、「や……」と言葉を濁すばかり。小首を傾げた菜子に、「やべ! 大和(やまと)くん来た!」と先生と名前が聞こえて、慌ててレオを部屋に入れてしまった。


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