偽りのヒーロー
「嘘。菖蒲ちゃんが大和くんとこ行ってんのにここに来るわけないじゃん」
ぺろ、と意地悪く舌を出したレオに、菜子は顔をしかめた。
「それもそうか……」
菜子が文句をつけると、レオがまあまあと宥めるように頭に触れた。
先生、という言葉におののいて壁に追いやられた菜子を尻目に壁にもたれたレオ。ん、と隣の床を叩き、菜子に座れと促した。どうやら多少寛ぐ気らしい。
部屋着に着替えた菜子の姿を一目すると、「風呂入った?」と、突拍子もないことを言い放つ。
何気ない世間話なのにも関わらず、レオの目は驚いたように見開かれている。
「……髪、ひらひらしてるな」
レオは菜子の髪に触れると、梳(す)くように毛先まで指を通した。菜子は慌てて手櫛で梳(と)かすように髪を撫でると、念入りに偽装していたはずの真っ直ぐの髪の毛をすくって笑った。
「矯正かけたのずいぶん前だからね、とれちゃった。ほんとは天パなんだよね」
隠していたはずのそれは菜子にとって、ずいぶんとコンプレックスのものだった。情けなく笑って見せると、再び髪をすくったレオがくるくると指に巻きつけるように、毛先を遊ばせている。
「……かわいい」
「えっ、何!?」
まるで愛でるようなレオの仕草に、菜子は茶化すような口を叩いた。歯の浮きそうな言葉に、なんとなく気恥ずかしくなってしまう。
慌ててレオの手を掴んで押しのけると、困惑したように菜子の腕を見ていた。