偽りのヒーロー
翌日、部屋のカーテンを開けてみると、昨日の天気が嘘のように真っ青な空が広がっていた。
帰りの新幹線は、急遽予定を変更した新幹線だった。そのためか、車両を貸し切りのように陣取っていた座席も、生徒がバラバラで座っていた。
なんとか菖蒲の隣に座ることができたから、帰りは修学旅行でずいぶんと枚数の増えた写真のフォルダを見ながら、楽しかったねと笑い合う。
金曜日に帰宅するはずだった日程は、紆余曲折の末、土曜日に学校へ生徒を届けた。
会社が休みのところも多いのか、近くに生徒らの家族の車が止まっている。重くなった荷物を運ぶ、優しい家族の気づかいが溢れんばかりと並んでいた。
「菜子ちゃん、乗っていきなよ。お父さん今町内会に行ってるから」
未蔓の父親が、車の窓からひょっこり顔を出しているのが見えた。菜子は先を行く未蔓の背中を追うと、慣れたようにトランクに荷物を積む。
「すみません、お願いします」
「ううん、いいのいいの。うちはね、母さんが町内会行ってるんだけどねえ。萩司が家にいるんだけどね、俺のこと邪魔だって追い出されちゃってなあ。あれっ、思春期かな」
「父さん、いいから早く車出して」
「ああ、はいはい」
のんびりした未蔓のお父さんの口調に笑みが漏れる。素っ気ない、その息子の態度にも。
ドライブに入れたギアを見て、後部座席に身体を沈めた。同じように未蔓も身体を沈め、目を瞑って寝る態勢になっていた。
その後、突然目を開けた未蔓におののくと、ポケットから何かを取り出して、菜子に手渡した。
「忘れてた。これ、レオから」
受け取ったのは御守と書かれた白い小袋。あらゆる神社で学業成就のお守りを買っていた菜子が、ただ一つだけ末吉の不穏なおみくじにショックを受けて、買い忘れた神社の名前。
「お守り?」
「来年受験だもんなあ」と運転席から聞こえる言葉に頷きながら、袋の中身を取り出した。
「……安産祈願」
「だね、安産祈願だね……」
間違うのであれば、恋愛成就のお守りがあっただろうに。
菜子と未蔓は顔を見合わせて、学生に似つかわないそのお土産を見ながら、けたけたと笑っていた。