偽りのヒーロー
一方その頃レオは、立ち去るに立ち去れない状況に陥っていた。
窓から見える、原田の頭。隣に誰がいるのかまでは見えなかったが、くすくすと笑う声には聞き覚えがある。
それでね、と続く会話からずいぶんと夏休み中よりも距離が縮まっているように思える。
持ち前の明るさで自分も原田とは距離が縮まったのだとは自負しているが、どうやらその女の子には敵わないらしい。
綺麗に染められた髪の毛、可愛らしい透きとおるような声。そんな菖蒲の声を聞いても、胸の鼓動は、今は規則的になっている。
せっかくだから、そよ風に揺れる二人の仲を、突風の如く茶化してやろうと思ったはずなのに。
「彼氏が告白されるのわかってて、普通部屋に戻れるかな?」
そう呟く菖蒲の声で、動き出そうとした体をレオはひっそりと隠した。
「うーん、どうかな。俺だったら妬いちゃうけど……。その場で帰ったとしても、その後いっぱい聞いちゃうかも」
「……だよね」
「それがどうしたの? 誰かの告白現場に遭遇でもした?」
「私がじゃなくて、……菜子が」
「菜っ子が告白されてたの?」
「そうじゃなくて、……結城が」
修学旅行のいずれかの日、紫璃が女子に告白をされていた。それについては、何も違和感を抱くことはない。
もとより菜子とつき合う前は、いろんな女とつき合っていたのだ。菜子と一緒になった今だって、きっとどこかで告白されている。
現に夏休み中、クラスメイトの友人たちと街で遊んでいたのを見かけたし、その中に数人の女子もいた。
しかしながら、半ば無理やり女性がいるところに連れていかれたのは目に見えている。紫璃がいると、女の集まりがいいと、前に何度も話に出たから。
それの何を疑問に思うことがあるのだろう。菖蒲は難しいことを考えるものだ、とレオは聞き耳をたてていた。