偽りのヒーロー
後姿でわかるほどに、原田の声は凛としていた。もしかすれば、隣にいたら怒っているかの如く聞こえるようなそれも、レオにはずいぶんと優しいように聞こえている。
「つき合ってるなら、それでいいんじゃないかな。他人が口だすことじゃない」
「……でも」
「菖蒲ちゃんが菜っ子のこと大事に思ってるのはわかった。だから何かのきっかけで、万が一菜っ子が結城のこと好きじゃないって気づいたらどうしようってことだよね。傷つくかもって」
「……」
「俺からしたら、結城のが傷つくと思うけどね。あ、だからか。それを知ったらってことか。菜っ子がもし他の人を好きだって気づいてもそのまま結城とつき合う、みたいな。合ってる?」
「……うん」
「ずいぶんと箱入りだな。菜っ子は」
「……」
「お母さんがいないから?」
「え?」
「お母さんがいないから、そういう風に過保護にしてるの?」
「そういうつもりは、……ないつもりなんだけど……」
「未蔓みたいにほっとけば? あいつは『一年やそこらで立ち直れるものじゃない。けど、そのうちけろっと元気になる。10年後とか』って言ってたよ」
すいぶんと似ていない未蔓の物まねだった。
不出来なそれに、思わず吹き出しそうになったが、レオは必死に口元を押さえてこらえている。
難しい御託ばかりを並べている二人の会話に、あまり理解は追いつかない。けれど、ひとつだけ引っ掛かることがある。
ほっておけるのか。
菜子が、菖蒲の言う笑顔を浮かべているだけだとは思わないが、もしそうなのであれば、どうするのだろう。
困っているときに颯爽と現れるはずのヒーローは、なぜ菜子のところには来てくれないのだろう。
「きついこと言ってごめん。やっぱり菖蒲ちゃんは優しいよ。友達のことそんなに考えられるなんて、えらい」
「……そうじゃないの。私は、友達……あんまりいなかったから。もし菜子が傷ついたりしても、何もしてあげられないよ……」