偽りのヒーロー




「傷つかないのは無理だよ。人って、一人では生きていけないから。別に彼氏がいてもいなくても」



 生きている限り、人は傷つくのだと原田は言う。


小さな赤子を産むのは母親だ。
例え夫となる人がいなくてもその検診をするのは医者だ。
一人暮らしを助けてくれるコンビニだって、数多くの人が関わっているのだ。
自給自足を試みて、畑を耕す工具を作ったのは誰だ。
自分の腹を満たすのは、何なのか。


原田はずいぶんと頭が回転する人物らしい。



「だから寄り添ったり離れたりするんだ。傷つけたってごめんで修復できるのなら、それでいい。修復できないから、そうなれる人を探すんだよ。できないのなら築くんだ。動物だってそうなんだ。人間にできないはずがない」



 腑に落ちない、といった様子の菖蒲に、原田は宥めるように頭を撫でている。



「菜っ子が傷ついたら、そのとき話を聞いてあげたらいいよ。傍にいてあげたらいい。友達のできることってそれしかないけど、それができるのは友達しかいないもの」



 大丈夫だよ、と告げる原田の目が優しい。

もしかして、この二人はつき合っているのだろうか。そう思わせられるほど二人の距離が近い。



見知った二人がこんなにも着実に心を通い合わせているのに、俺は、何をやっているのだろう。


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