偽りのヒーロー
「……好きな子に、俺のこと見てほしい」
拍子抜けした加藤の顔はみるみるうちに曇っていく。まるで、ふざけてるのかとでも言いたいような。
至極真面目な感情だ。今一番のレオの将来を希望するところなのだ。
見据えたレオの目を見て、何やら開いていた資料から、加藤は目を放した。
「何。立花は恋煩いでもしてんのか」
「こいわずらい?」
「あー、だから、好きな子のことでいろいろ悩んでんのかってことだよ」
聞き返したレオの言葉を、極力噛み砕いて言い直した。この大人は、レオの話を聞いてくれる気らしい。
机にだらんと突っ伏して、レオは言葉を重ねた。
「……ヒーローだと思ってた子が違う子だったんだ。俺はヒーローが好きだったはずなのに、その子じゃない子に目がいっちゃって、でもその子がヒーローだったんだよ。どうしよう、大和くん」
「加藤先生な」
レオは机に顔を伏せた。加藤からは言葉は発せられず、カチコチと教室の大きな時計の音だけが響いている。低くなった日差しが窓からさして、夕日に照らされた左側の身体だけが熱くなる。
「結局ヒーローを好きだってことだろ? 別にいいだろ。何を悩むんだよ」
レオの少し下手な言葉選びの説明も、加藤はいとも簡単に要約してみせた。
既に進路調査の紙に目もくれず、ギイギイと音を立てて、生徒の椅子の背もたれに身体を預けている。うーと言葉にならない言葉を発したレオは、机の上でもがいている。
その生徒の言葉を、腰を据えて待ってくれているようだった。
「……なんか、全然ヒーローじゃなかったんだよ。いや、なんていうか、女の子だった」
「はあ? お前のその好きな子が女だったら当然だろうが。何に悩んでんのかって聞いてんの。ヒーローじゃないからか? だから、正義のヒーローが守ってくれなくなるとか、そういうのか?」
「全然違うよ、大和くん……」
上手く説明できないレオに、加藤は淡々と進言するも、功を奏さず。頭を抱えるレオに、加藤はギッと椅子を揺らした。