偽りのヒーロー
生徒の少しばかり憎たらしい顔つきにも、加藤は真剣な顔つきをしていた。
「ヒーローはなんでいると思う? 選ばれたのを引き受けたからだろ。例え、それがやりたくないことだとしてもな。
岡村だって学級委員長に立候補してなかっただろ。みんなの推薦受けて、しかないかもしれないけどやってくれてんだよ。
そういうの忘れんな」
とんとんと中間考査の順位を指さし、レオの前に差し出す。
「立花は成績はよくないけどな、考えられるやつだとは思ってる。だから今からちゃんと考えろ。見るもの全てが全部だと思うな。必ず隠れてることはある。由来もそうだ、負の感情とかもな」
「……それが成績とどう繋がるのかわかんないよ」
「お前なあ。……その好きな子とつき合ってどうしたいわけ」
「わかんない……結婚とか?」
「……すげえな。じゃあ仮に結婚を考えるまでになったとしたらよ? 700万稼ぐ男と収入のない男だったらどっちがいいんだよ。
大半は700万だろ。でもどうよ。200万稼いでたら、揺れるぞ。なかったはずの選択肢が増えてるわけ。きっと好きなら、共働きでなんとかやっていけるかもとか思ってくれる女もいる。
でも今のお前じゃ200万の男にもなれねえぞ」
30オーバーの独身男の言うことは重みはあるが、説得力に欠けていた。
一端の地方公務員ではあるものの、彼女もおらず、独身のまま。
それでも自分の身を切り売りしてでも、生徒の将来の安寧を手に入れることができるのなら安いものだ。
レオは気づいていないようだが、加藤は自分の言葉で自傷行為を繰り返している。