偽りのヒーロー
目の前の生徒は、打って変わって頭を悩ませている。純粋な感情ゆえに、扱いやすいが壊れやすい。
その醍醐味が教師なのだとは思うのだが、いまいち学業に身の入っていないこの生徒を、なんとかやる気にしてやれないものだろうか。
「お前が何にもしてないのに、好きな奴に好いてもらえると思うな。
だからちゃんと勉強しろ。卒業できればいいとかで終わるな。
何十年先も生きるんだぞ、楽しいほうがいいだろ」
「……うん」
「じゃあもう今日はこれで終わりにするか」
「え、いいの? まだ何も決まってない……」
「身に入ってないやつに聞いてもしかたないだろ。そのかわり後でまた呼ぶからな」
加藤は椅子から立ち上がると、ポンとレオの頭を撫でた。
呆れているのだろうか、そう思って見上げると、にっこりと笑みを浮かべていた。
「そんなに好きな子がいるなんてすげえじゃん。俺なんてお前らの倍生きてるけど、そんなんいないぜ」
がんばれ、と頭を掻きまわして、加藤は教室を後にした。
大人はずるい。突き放したかと思えば、甘い言葉をくれたりして。
どうすればいいんだろう。
進路も、恋も、まだまだ答えが出る余地はない。