偽りのヒーロー
「いつの間にそんな色々と……。告白? 好きな人? なにがどうして……」
目がぐるぐると回って、コミカルな動きをする菜子に、ふっと笑みを漏らす菖蒲。小さく深呼吸をして、スカートの裾をくしゃりと握りしめた。
「……好きかどうかは、まだよくわからない。けど、気になっては、いる」
ほんのり赤らめる菖蒲が、大人びた顔からずいぶんとかけ離れた乙女な顔をしていた。長くカールした睫毛が、窓からそよぐ風に揺れ、菖蒲の感情を表しているかのように思えた。
ぶんぶんと上下に顔を振ると、菜子も負けず劣らず顔を真っ赤にしたのは、恋の感情ではなく、血の巡りが良くなったせいだった。
髪を撫でる菖蒲はくすりと口角を上げて、教室に戻る。
まだよくわからないという不確定な感情は、きっと確定しつつあるのだと、菖蒲の背中を見て確信した。
背中が揺れている、揺れて見える。ふわふわと熱を持った甘い空気が、菜子の目に焼き付いた。恋の瞬間を目撃したわけではないのに、なぜだか菜子まで照れくさくなる。
菖蒲に続いて席につくと、レオが何か聞きたそうに視線を向けてきたのには笑みが漏れた。
きっとしつこいくらいに尋問したいだろうに、すぐ傍に菖蒲がいるものだからそれすら敵わないでいた。