偽りのヒーロー
action.20
冬を迎えると、日が暮れるのが早くなった。夜になるのも、すいぶんと早い。
きっと受験生にとっては手放して楽しめる最後のクリスマスを前に、教室の空気は楽し気に浮かんでいた。
「ちょっとノート貸してくんね?」
もはや恒例になったと言ってもいい、テストが近くなると、慌ててノートの貸し借りをする菜子とレオ。慣れた手つきでノートを渡すと、レオはカバンにそれを入れた。
「菜子ってさ、進学? 就職?」
二者面談で、加藤に喝でも入れられたのだろうか。普段はまったくと言ってもいいほど出ない言葉に驚いて思わずレオの体調不良を疑ってしまった。
「進学。私、教師になりたいから」
「え!? そんなん初めて聞いた!」
「だろうねえ。レオには言ったことないもん」
当たり前のように言ってのける菜子の言葉に、レオは目を丸くした。まわりに集まって談笑していた菖蒲と未蔓の顔を覗けば、何ひとつ表情は変わっていない。
「ミッツは!?」
「進学。理系」
「菖蒲ちゃんは!?」
「私も4大。文系かな」
次々と出てくる友人の、しかもこんなに近しい友人たちから出てくる単語に、頭が追い付かなくなった。皆一様に将来を考えており、こうも具体的に将来を見据えていることに落胆した。
菜子を好きだと気づいた日から、紫璃と自分を比較して。二者面談をした日から、紫璃と自分を比較して。
いつもどうやって菜子に思いを伝えるかなんて色恋に溺れていたわけだが、あっという間に出遅れていたようだ。
「紫璃は? 菜子聞いてる?」
「進学だって。文系。経済学部あたりって言ってたよ」
なんてことだ、とレオは頭を抱えた。
具体的には経済学部が何をするのかなど知る由もないが、なんだかかっこいい大人の響きに思えた。大学だなんて考えたこともないのだが、未だに就職するビジョンも見えていなかった。
おかげで加藤に怒号を飛ばされる毎日なのだが、それでもまだ結論には至っていない。
「俺も大学行こうかな」
ぽつりとレオが呟くと、周囲の目が驚くほどに冷ややかで、身体を縮込めた。
あれやこれやと聞いたところで、その目が優しいものになる様子はない。